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東京高等裁判所 昭和48年(行コ)12号 判決

茨城県日立市滑川町南オボ内九二番地

控訴人

有限会社鈴真工業所

右代表者代表取締役

鈴木重蔵

右訴訟代理人弁護士

武藤禾幹

同県同市若葉町二丁目一番八号

被控訴人

日立税務署長

茅根曻次

右指定代理人検事

前蔵正七

法務事務官 二木良夫

大蔵事務官 大塚俊男

大蔵事務官 高畑甲子雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「控訴人の昭和三七年七月一日から同三八年六月三〇日までの事業年度分法人税につき、被控訴人(当時高萩税務署長、昭和四二年四月一日日立税務署長に名称変更)が昭和三九年五月三〇日付法人税等の更正通知をもつて、法人税額を更正し加算税を賦課した更正処分のうち、左記金額に対する分を取消す。所得金額九、六六二、〇四五円、所得に対する税額三、五八九、九九五円、留保所得金額四、一〇二、七〇〇円右に対する法人税額四一〇、二七〇円、過少申告加算税二〇〇、〇〇〇円、法人税額合計四、二〇〇、二六五円。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、左記のほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(控訴代理人の主張)

譲渡所得に対する課税の時期は当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転した時であると解すべきところ、本件土地交換契約において、控訴会社と訴外日立セメント株式会社(以下訴外会社という)は昭和四〇年一〇月に至つて交換土地につき相互に所有権移転登記をなすとともに訴外会社から控訴会社に対し交換差額金の残金の支払がなされたのであるから、この時点において初めて交換土地の所有権が相手方に移転され譲渡益が実現されたものというべく、従つて、昭和三七年一一月中に控訴会社の譲渡益が実現したものとしてこれを本件事業年度の益金と認定した本件更正処分は違法である。

(被控訴代理人の主張)

控訴会社は昭和三七年一一月に訴外会社から取得すべき土地を訴外会社が「覚書」にもとづき同地上に建築した工場その他設備一切とともに引渡をうけ、同月中に右新工場への機械設備の移転等の作業を完了して操業を開始するとともに、訴外会社に引渡すべき土地等について契約の趣旨に従いこれを引渡しているのであるから、このときに譲渡益が実現したものとしてこれを本件事業年度の益金と認定した本件更正処分には何ら違法な点はない。なお、登記は物件移転の対抗要件にすぎないから所有権移転登記の日をもつて権利確定の日とすることは適当でない。また交換差金の一部が昭和四〇年一〇月に支払われたことが本件課税処分に何ら影響を及ぼすものでないことは、資産の譲渡に対する課税の本質に照らし明らかである。

理由

当裁判所は、控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、左記のとおり付加するほか原判決記載の理由と同じであるから、これを引用する。

控訴会社と鈴木重蔵は昭和三七年七月三一日訴外会社との間に、控訴会社はその所有の原判決末尾添付第一目録記載の宅地を、鈴木はその所有の同第二目録記載の宅地を訴外会社に提供し、訴外会社は同第三目録記載の土地(当時農地)に宅地造成工事を施したうえ控訴会社および鈴木に提供して各所有権を移転、交換すること、訴外会社は第三目録の土地上に工場等を新設しその所有権を控訴会社に移転すること、控訴会社は右新設工場への移転完了と同時に第一、第二目録の土地上に存する工場その他の物件の所有権を訴外会社に移転すること、訴外会社は控訴会社の右新設工場への移転完了までに控訴会社および鈴木に計金四一三万五、五〇〇円を右土地価格の差額金、控訴会社の機械設備移転据付費等の趣旨で支払うこと等の約定からなる本件土地交換契約を締結した。そして訴外会社は、右契約に基づき、第三目録の土地につき予め地主(宮本正次郎ら)と結んでおいた売買契約に基づく所有権の移転につき同年八月農地法第五条に定める許可を受けたうえ宅地造成工事を施し工場その他の建物を建築したほか各種設備の新設等を完了し、同年一一月中には右第三目録の土地を同地上の右新設工場その他設備一切とともに引渡し、控訴会社は同月中に右新工場への機械設備の移転等の作業を完了して一部操業を開始し、遅くとも昭和三八年二月には操業の全面的再開をみるに至つた。そして、控訴会社の右新工場への移転にともない、第一、第二目録の土地は訴外会社に引渡され、その地上に存する控訴会社所有の工場等の建物は、本件契約の定めに従い新外会社の所有に帰した。

以上のごとく認められることは原判決の説示するとおりである。そして、右の事実関係に徴すれば、控訴会社所有の第一目録の土地の所有権は、控訴会社が第三目録の土地上の新工場への移転を了し、それにともない右第一目録の土地を訴外会社に引渡した昭和三七年一一月中には、控訴会社から訴外会社に移転したものと認めるのを相当する。なるほど、控訴会社所有の第一目録の土地は登記簿上は亡鈴木真治の所有名義となつていたため、鈴木良一のため相続による所有権移転登記を経由したうえ訴外会社のため交換による所有権移転登記がなされたもので、右各登記手続が行なわれたのは昭和四〇年一〇月になつてからであり、また前示土地価格の差額金等計金四一三万余円のうちの残金一八〇万円が訴外会社によつて完済されたのも右同年月に至つてからであると認められるけれども、これら事実が右土地所有権の移転時期に関する認定の妨げになるとは認められない。

そうすると、第一目録の土地の譲渡による控訴会社の収益は、右認定にかかる所有権移転の時に実現されたものというべく、従つて、これを本件事業年度(自昭和三七年七月一日至昭和三八年六月三〇日)の益金と認定した本件更正処分には控訴人主張のような違法はないことが明らかである。

よつて、以上と同趣旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩野徹 裁判官 中島一郎 裁判官 桜井敏雄)

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